為替ヘッジあり・なし、どちらを選ぶか。目論見書の3行と1本の式で読み解く
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同じ指数に投資するファンドでも、「為替ヘッジあり」と「なし」では1年後の円建て損益が10万円単位で食い違う。目論見書はこの違いを3行で済ませている。この記事では、その3行と1本の式だけで、ヘッジの有無をどう読むかを自分の手で確かめられるようにする。
目論見書は「あり」と「なし」を3行で片付ける
手元に、SBIアセットマネジメントの「SBI・iシェアーズ・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)/(為替ヘッジなし)」の交付目論見書(使用開始日 2026年3月11日)がある。同じ金ETFに投資する姉妹ファンドで、違いは為替ヘッジの有無だけ。だから両者を比べると、ヘッジという行為そのものの値段が見える。
目論見書の「為替変動リスク」の欄は、ヘッジありについてこう書いている。
実質組入外貨建資産について、原則として対円での為替ヘッジを行いますが、為替変動リスクを完全に解除排除できるわけではありません。また、為替ヘッジを行う際、円金利が組入資産の通貨の金利より低い場合には、金利差相当分の費用(為替ヘッジコスト)がかかります。SBI・iシェアーズ・ゴールドファンド 交付目論見書(2026.3.11)「投資リスク」より
ヘッジなしの欄は「投資先の通貨に対して円高となった場合には、本ファンドの基準価額の下落要因となります」で終わる。合わせて3行。私は外資系の運用会社で15年ほど、この手の文書を英語版から日本語版へ照合する側にいたが、日本語の目論見書がヘッジコストに割く行数は、当時も今も変わっていない。
短い理由は単純で、ヘッジコストは信託報酬の表に載らないからだ。同じ目論見書の費用欄を見ると、運用管理費用は年0.0638%(税抜0.058%)、投資先ETFの経費を含めた実質負担は年0.1838%程度と、あり・なしで一字も違わない。ヘッジの費用は基準価額の中で日々消えていく。表に出ない費用は、自分で計算するしかない。
ヘッジコストの正体は金利差。1本の式で書く
「金利差相当分の費用」を、そのまま式にする。1年保有、ヘッジ比率100%、外貨建ての資産そのものの年間リターンを r、購入時の為替を F0、1年後の為替を F1、円と外貨の短期金利差を c と置く。
- ヘッジなし:円建て損益 = 元本 × ((1 + r) × (F1 ÷ F0) − 1)
- ヘッジあり:円建て損益 ≒ 元本 × ((1 + r) × (1 − c) − 1)
ヘッジなしの式には為替の比 F1÷F0 が入り、ヘッジありの式には為替が出てこない。代わりに金利差 c が毎年引かれる。為替予約の理論価格は両国の金利差で決まるので、円金利が外貨金利より低い間は、ヘッジをかけるだけで年 c% を先に払う構造になる。逆に円金利が高い局面ならヘッジで受け取る側に回るが、私の社会人生活でそんな年は一度もなかった。
この式には、実際の為替予約レートとの差、ヘッジのロール(乗り換え)のタイミング、ファンド内の現金比率が反映されていない。だから「≒」で書いている。ただ、桁を間違えない程度の目安には十分で、私は今でも新しい海外ファンドを見るとき、この式を紙の余白に書いて感触を掴む。
100万円・1年で数字にする
数字を入れてみる。仮定は、元本100万円、資産のリターン r = 年5%、購入時の為替 F0 = 1ドル150円、金利差 c = 年4%。金利差4%は、日米の短期金利差が大きく開いていた2023〜2024年ごろの水準に近い置き方で、実際の値はその時々の政策金利で動く。
| 1年後の為替 | ヘッジなし | ヘッジあり |
|---|---|---|
| 135円(円高10%) | −55,000円 | +8,000円 |
| 150円(据え置き) | +50,000円 | +8,000円 |
| 165円(円安10%) | +155,000円 | +8,000円 |
計算はこうだ。円高10%なら 100万円 × (1.05 × 0.9 − 1) = −55,000円。円安10%なら 100万円 × (1.05 × 1.1 − 1) = +155,000円。ヘッジありは為替の行に関わらず 100万円 × (1.05 × 0.96 − 1) = +8,000円で固定される。
見どころは2つある。1つ目は、資産が5%伸びても、ヘッジありの手取りは0.8%しか残らないこと。金利差4%は、5%のリターンの8割を食う。2つ目は、損益分岐点。150円 × (1 − 0.04) = 144円。1年後の為替が144円より円高ならヘッジありが勝ち、円安ならヘッジなしが勝つ。ヘッジの是非は「円高になるか」ではなく「金利差ぶんを超えて円高になるか」で決まる。
この分岐点の考え方は、金利差が2%なら147円、6%なら141円と動く。金利差が縮む局面では、ヘッジありの不利は小さくなる。2024年3月に日本銀行がマイナス金利を解除して以降、この c は少しずつ縮む方向に動いた。ヘッジの損得は固定ではなく、政策金利の会合ごとに書き換わる。
同じ運用会社の姉妹ファンドで、純資産は「なし」が2.6倍
先ほどの目論見書に戻る。運用実績のページ(基準日 2023年12月29日)で純資産総額を見ると、為替ヘッジありが7.90億円、為替ヘッジなしが20.54億円。設定から1年足らずで、資金は「なし」に2.6倍集まった。
私はこれを「投資家がヘッジコストを理解している証拠」とは読まない。2023年は円安が進んだ年で、ヘッジなしの基準価額が伸びていた。伸びている方に資金が寄るのは自然で、その逆の年には「あり」が選ばれる。純資産の差は判断の結果ではなく、直近の為替の結果だと思っている。だから純資産の多寡でヘッジの有無を選ぶのは、後追いになりやすい。
資産運用業協会の解説も、為替変動リスクを「外国通貨建ての資産に投資する投資信託の場合、一般的には円高になれば基準価額にマイナス、円安ならプラスの影響があります」と説明している。ここまでは誰でも知っている。知られていないのは、その為替リスクを外す値段が「金利差」という形で毎年請求されることだ。
2022年10月に、私がヘッジなしを一部売った理由
私自身の話をする。2022年10月、ドル円が150円に乗った週に、私は保有していたヘッジなしの米国債券ファンドを3割ほど売った。買ったのは2020年の春で、当時のドル円は108円前後。債券そのものは2022年に米国の利上げで値下がりしていたのに、円換算の評価額はプラスだった。含み益の中身を分解すると、債券の値下がり分を為替の値上がり分が上回っていただけ。私は債券を買ったつもりで、実質的にはドルを買っていた。
売った理由は「これ以上の円安を予想したから」ではない。自分の資産の損益が、意図していない変数(為替)で決まっている状態が気持ち悪かったからだ。手放した3割は、当時まだ金利差が小さかったタイミングで、ヘッジありの同種ファンドに移した。その後の円安で、残した7割の方が結果として増えた。それでも私はこの判断を後悔していない。何で損益が決まるのかを自分で選べた分だけ、夜よく眠れた。
この経験から、私がヘッジの有無を決めるときの順番が決まった。為替の予想は最後に置く。先に「この資産で、私は何のリスクを取りたいのか」を決める。
選ぶ前に自分へ投げる3つの問い
問い1:保有期間は何年か
金利差 c は毎年引かれる。1年なら4%でも、10年なら単純計算で40%に近い差になる。保有が長いほどヘッジありのハンデは積み上がり、為替が長期で平均回帰するなら、ヘッジなしの為替リスクは時間で薄まる。私は10年以上持つ資産にはヘッジをかけない。
問い2:資産のリターンは為替の振れ幅より大きいか
金ETFや外国債券の年間リターンは、為替の年間変動(10%前後は珍しくない)より小さいことが多い。こういう資産では、為替が損益の主役になる。株式インデックスのように資産自体の変動が大きい場合は、為替は脇役に回る。主役を為替にしたくない資産にだけ、ヘッジの値段を払う価値がある。
問い3:この円建て資産は、何年後に円で使うのか
3年後に日本で住宅の頭金にする資金なら、為替で2割減る事態は避けたい。老後まで触らない資金なら、その間に外貨での購買力を持っておくこと自体に意味がある。同じ「海外ファンド」でも、使う予定によってヘッジの答えは変わる。私は、使途が決まっている資金だけにヘッジをかけている。
3つとも、為替の予想は入っていない。予想が当たる前提でヘッジを決めると、外れた年に方針ごと変えたくなる。予想抜きで決めた方針は、外れた年にも守れる。
シミュレータで手を動かす
このページ右側(スマートフォンでは本文の下)に、上の式をそのまま組んだシミュレータを置いた。元本・購入時の為替・1年後の為替・資産のリターン・金利差の5つを入れると、円高10%・据え置き・円安10%の3シナリオでヘッジあり/なしの損益を並べる。表示は「目安」で、実際の為替予約レート、信託報酬、税金、分配金は入っていない。
試してほしい入力が1つある。金利差を 4 から 1 に変えてみる。損益分岐の為替が144円から148.5円へ動き、ヘッジありの手取りが+8,000円から+39,500円へ変わる。ヘッジの損得は為替の予想ではなく、金利差の設定1つでここまで動く。目論見書の3行が省略している「金利差相当分」の重みが、指先で分かる。
覚えておく3つのこと
- ヘッジコストは信託報酬の表に載らない。同じ運用会社の姉妹ファンドでも、費用欄は一字も違わない。
- 損益分岐の為替 = 購入時の為替 × (1 − 金利差)。ヘッジの是非は「円高になるか」ではなく「金利差を超えて円高になるか」で決まる。
- 純資産の多い方を選ぶのは、直近の為替の後追いになる。先に保有期間・資産の性質・使途を決め、為替の予想は最後に置く。
次回は、外貨建て債券ファンドの「利回り」表示のうち、為替ヘッジ後にどれだけ残るのかを、同じ式で分解する。
参考にした一次情報
- SBIアセットマネジメント「SBI・iシェアーズ・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)/(為替ヘッジなし)投資信託説明書(交付目論見書)」使用開始日 2026年3月11日 — 交付目論見書(PDF)
- 資産運用業協会「投資信託が持つリスク」 — https://www.imaj.or.jp/study/investmenttrust/meritrisk/risk.html
- 資産運用業協会「運用対象での分類」(属性区分の「為替ヘッジ」欄) — https://www.imaj.or.jp/study/investmenttrust/type/category.html
- 金融庁「NISAを知る」NISA特設ウェブサイト — https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/know/index.html